[音楽解説]
「さらば愛しき大地」はリアリズム映画の傑作
であるが、もし音楽に別の凡庸な楽曲が採用され
ていたなら、これほど印象深い映画にはならなか
っただろう。
オープニングタイトルでコンビナートの夜景に
被って流れる、日本的でもあり中東の音楽のよう
でもあるテーマ。ブルーリボンスタッフ賞の受賞
となったこの音楽は、耳当たりのいい解りやすい
曲ではない。透徹したリアリズムのこの映画にあ
って、一種異様な音楽は、単なる映画音楽の域を
超えてあたかも唯一象徴的な「魔」としてそこに
存在しているかのようなショッキングな存在感を
呈している。生と死、愛と憎。二律背反する人間
世界の不条理を淡々と見つめいつしか心の隙間に
巣食う何か得体のしれないもの。歪んだ笛の音は、
まるで異界から響くそのものの声のようにも聴こ
えるのである。
横田年昭の紡ぎだす音楽世界は深く、深さゆえ
に時として暗い。しかしそれは覗き込まずにはい
られず、一度覗き込むと眼をそらすことができな
い深淵の誘惑に満ちている。
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